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【産前産後休業の取り扱いでミスをしないために】手続きのポイントを社労士が解説

2025.01.06

※この記事は、5分程度で読むことができます。

はじめに

妊娠中や出産後の女性従業員が安心して働ける環境を整えることは、企業にとって重要な責任の一つです。特に、産前産後休業の適切な取り扱いは、労働基準法に基づいて確実に実施する必要があります。しかし、休業期間や給付金手続きのルールを誤解してしまうと、従業員の信頼を損なうだけでなく、法令違反としてペナルティを受ける可能性もあります。

本コラムでは、産前産後休業の基本ルールを整理し、よくあるミスを防ぐためのポイントと、社会保険労務士が提供できる具体的な支援内容をご紹介します。

1.産前産後休業の基本ルール

(1) 産前休業
労働基準法第65条に基づき、妊娠中の女性労働者は出産予定日の6週間前(多胎妊娠の場合は14週間前)から希望に応じて休業できます。

注意点
・休業は本人が希望する場合に適用されます。
・出産予定日を証明するために、医師の診断書が必要になることがあります。


(2) 産後休業
出産後の女性労働者には、8週間の休業が義務付けられています。

【例外規定
出産後6週間を経過した後、本人が希望し、医師が認めた場合に限り、軽易な業務への従事が可能です。ただし、会社側が無理に就業を求めることはできません。


(3) 保護される労働者の範囲
産前産後休業は、正社員だけでなく、契約社員やパートタイム労働者など、雇用形態に関係なく適用されます。

2.ありがちなミスと対処法

(1) 産前産後休業の開始時期を誤る
出産予定日を基準に開始時期を計算する必要がありますが、計算ミスが発生することがあります。

対処法
・医師からの診断書をもとに正確な日数を把握。
・勤怠管理システムを活用して休業開始日と終了日を明確に管理。


(2) 休業中の労働条件変更
産前産後休業中の従業員に対して、雇用契約条件を一方的に変更することは、労働契約法第9条および第10条に違反します。

【根拠条文
労働契約法第9条:使用者は、労働契約を変更する際、労働者の同意を得なければならない。
労働契約法第10条:就業規則の変更による労働契約内容の変更は、労働者の不利益変更とならない限り認められる。

具体的な事例と対処法
例1:休業中に従業員の給与体系を変更。
対処法: 変更内容を事前に通知し、本人の書面による同意を取得する。

例2:休業中に職務内容を変更。
対処法: 復職時に従業員との面談を行い、同意を確認する。


(3) 休業中の社会保険料控除の誤り
産前産後休業中は、社会保険料が免除される場合がありますが、手続き漏れや計算ミスにより免除が適用されないことがあります。

【根拠条文
健康保険法第159条:産前産後休業を取得する被保険者については、休業期間中の保険料を免除する。
・厚生年金保険法第81条の2:産前産後休業を取得する被保険者については、休業期間中の保険料を免除する。

【対処法
手続きの確認
・健康保険および厚生年金保険料の免除申請を日本年金機構に提出。
・休業開始日および終了日を正確に記載。

社内体制の整備
・手続き担当者が制度を理解していない場合、適切な教育を実施。

確認体制の構築
・労務管理システムを利用して、申請状況や免除適用状況を随時チェック。

3.給付金に関する手続き

(1) 出産育児一時金
出産費用を補助するため、健康保険から一時金が支給されます。

ポイント
支給額は原則42万円(産科医療補償制度の対象外の場合は40.8万円)。
医療機関が直接支払制度に対応している場合、従業員が立て替える必要はありません。


(2) 出産手当金
出産のために仕事を休んだ期間に、健康保険から支給される手当金です。

支給額
・支給額は、1日あたり「標準報酬日額の3分の2」相当。
・産前休業と産後休業の期間中に支給されます。

計算例
条件
・月額標準報酬:30万円
・1か月の所定日数:30日
・休業期間:98日(産前42日 + 産後56日)

計算
・1日あたりの標準報酬日額 = 30万円 ÷ 30日 = 1万円
・1日あたりの出産手当金 = 1万円 × 2/3 = 6,666.67円
・総支給額 = 6,666.67円 × 98日 = 653,333円(概算)

注意点
・申請書類に必要な記載内容(医師の証明、事業主の確認など)を正確に記載。
・事務処理をスムーズに進めるため、従業員との連携を密に行う。

4.他の社員への配慮と業務負担の調整

産前産後休業に入る従業員がいる場合、企業は他の従業員への配慮と業務負担の調整を行うことが重要です。

(1) 業務の引き継ぎ体制の整備
引き継ぎ計画の作成
・休業開始前に、業務内容をリスト化し、引き継ぎ先の従業員と共有。
・必要に応じて、業務手順書やマニュアルを作成。

引き継ぎ期間の確保
・休業開始前に十分な時間を設けて引き継ぎを行い、スムーズな業務継続を支援。


(2) 他の従業員への配慮
業務負担の公平な分配

・特定の従業員に業務負担が集中しないよう、チーム全体で協力体制を構築。
メンタルヘルスケアの実施
・業務量が増加する場合、従業員のストレスを軽減するための定期的なフォローアップ。


(3) 外部リソースの活用
・必要に応じて、派遣社員やパートタイム労働者を一時的に雇用し、業務負担を軽減。
・社会保険労務士や外部コンサルタントのアドバイスを受けて、業務改善を図る。

5.社会保険労務士ができる支援

(1) 就業規則の整備
・労働基準法に基づき、産前産後休業に関する規定を就業規則に適切に反映。
・多様な働き方に対応した休業制度の整備をサポート。

(2) 休業期間中の手続き代行
・社会保険料免除の申請や給付金手続きの代行。
・産前産後休業に関連する必要書類の作成。

(3) トラブルの予防
・従業員との休業に関する認識のずれを防ぐため、会社側と従業員間の調整を支援。
・法令遵守に基づいたアドバイスを提供。

(4) 復職支援
・復職時の業務内容や条件についての相談対応。
・育児と仕事を両立できる環境整備の提案。

(5) 給付金申請サポート
・出産手当金や出産育児一時金の申請書類作成をサポート。
・支給額の計算や申請手続きの代行。

(6) 教育と研修
・管理職や人事担当者向けに、産前産後休業に関する法令や制度の研修を実施。
・トラブル事例をもとにした予防策の講義を提供。

まとめ

産前産後休業の適切な取り扱いは、従業員が安心して働ける職場環境を提供する上で欠かせません。労働基準法に基づく基本ルールを正確に把握し、法令に準拠した対応を行うことが重要です。また、休業中や復職時のサポートをしっかりと行うことで、従業員のモチベーション向上や定着率の改善につながります。

社会保険労務士の専門的な支援を活用することで、法令遵守を徹底しつつ、より円滑な産前産後休業の運用が可能になります。ぜひプロの力を借りて、働きやすい職場環境を構築してください。

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