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【労務トラブルを回避する】業務転換命令を拒否する社員への対応について社労士が解説

2025.01.15

※この記事は、5分程度で読むことができます。

はじめに

企業が業務の効率化や事業計画の変更に伴い、従業員に対して業務転換を命じることは珍しくありません。しかし、業務転換を命じられた従業員がこれを拒否した場合、どのように対応すべきか、また、どのように問題を解決するかは非常に重要な課題です。


本コラムでは、業務転換命令に関する法的な枠組みや具体的な対処法について解説し、社会保険労務士がどのような支援を提供できるのかを紹介します。

1.業務転換命令の法令の枠組み

業務転換命令は、使用者が持つ「配転命令権」に基づいて行われます。しかし、この命令権の行使が無制限ではないことに注意が必要です。

1.配転命令権の根拠

(1)労働契約
労働契約書や就業規則に、職務内容の変更が可能である旨が明記されている場合、業務転換命令は契約上認められた権利となります。

    (2)就業規則の規定
    就業規則で「会社の業務上の必要に応じて職務変更を命じることができる」と定められている場合も、命令権は有効です。


    2.業務転換命令が無効とされる場合

      裁判例では、業務転換命令が無効とされるケースもあります。これには以下の要件が関係します。

      (1)業務転換の必要性
      命令が業務上の必要性に基づいていること。

      (2)従業員への不利益の程度
      業務転換による従業員の不利益が過大でないこと。

      (3)権利濫用の禁止
      命令が不当な動機・目的に基づいていないこと。

      これらを満たさない業務転換命令は、無効と判断される可能性があります。

      2.業務転換命令を拒否する従業員への対応

      1.業務転換の背景と理由の説明
      従業員が業務転換を拒否する理由を聞き、企業側の立場と背景を誠実に説明することが重要です。

      【企業の視点】
      事業の方向転換や需要の変化に対応する必要性を伝える。
      【従業員の視点】
      従業員が抱える不安や不満に対して、共感的な態度で接する。


        2.代替案や柔軟な対応の検討
        業務転換が難しい場合、柔軟な対応を検討します。

        【段階的な移行】
        新業務への移行期間を設ける。
        【希望業務の一部継続】
        現在の業務を一部維持する方法を検討。


        3.教育や研修の提供
        業務転換に不安を抱える従業員に対して、新業務に必要なスキルを習得するための研修を提供します。

          ・OJT(職場内訓練)
          ・外部講師を招いたスキルアップ研修



          4.法的リスクの検討
          命令を拒否し続ける従業員に対して強硬措置を取る場合、法的リスクを慎重に検討する必要があります。

            (1) 注意・指導
            【対応内容】

            業務命令に従わない理由を確認し、口頭または文書で注意を与える。
            【ポイント】
            注意の際には記録を残し、従業員が命令の正当性を理解できるよう説明します。
            【リスク】
            注意・指導だけでは問題が解決しない場合、従業員の不満が深刻化する可能性があります。

            (2) 戒告・譴責
            【対応内容】

            社内規定に基づき、正式な譴責を行い、改善を求める。
            【ポイント】
            事前に就業規則に定められた懲戒手続きに則り、公平性を確保します。
            【リスク】
            従業員が不当な懲戒と主張する場合、トラブルが拡大する恐れがあります。

            (3) 減給・出勤停止
            【対応内容】

            業務命令の違反が継続する場合、就業規則に基づき減給や一時的な出勤停止を命じる。
            【ポイント】
            処分を行う前に労働基準法第91条(減給制限)に基づく規定を遵守します。
            【リスク】
            経済的制裁は慎重に運用しないと、不当なペナルティとみなされる可能性があります。

            (4) 懲戒解雇
            【対応内容】

            業務命令違反が重大であり、改善が見込めない場合に限り、懲戒解雇を検討します。
            【ポイント】
            懲戒解雇は最後の手段であり、事前に弁護士や社会保険労務士と十分な相談を行います。
            【リスク】
            不当解雇とみなされるリスクが非常に高いため、証拠を確実に収集し、解雇理由を明確にする必要があります。

            3.社会保険労務士ができる支援

            社会保険労務士は、業務転換命令に関する課題に対して以下のような支援を提供できます


            1.法的枠組みの確認とアドバイス
            【就業規則の整備】

            ・業務転換命令を適正に行えるよう、就業規則や雇用契約書の内容を見直し、必要な規定を整備します。
            【法的リスクの回避】
            ・配転命令の適法性を事前に検証し、企業が法的トラブルを回避できるよう助言します。


              2.従業員対応におけるサポート
              【面談の注意点やポイントのアドバイス】
              ・従業員との面談を行う際の注意点や、効果的なコミュニケーション方法について助言します。これにより、誤解や対立を避け、円滑な対話が実現します。
              【カウンセリングの手配】
              ・従業員の状態をヒアリングし、外部のカウンセラーなどの専門家の受診をおすすめします。

              3.教育・研修の企画
              業務転換に伴う教育・研修プログラムの策定を支援します。
              【内容のカスタマイズ】
              ・新業務に必要なスキルや知識を考慮した研修内容の提案。
              【外部講師の紹介】
              ・専門知識を持つ講師を紹介し、従業員のスムーズな業務移行をサポートします。


              4.トラブル発生時の対応
              【第三者としての調整役】

              ・労働組合や従業員代表との交渉において、中立的な立場で調整を行います。
              【行政機関への対応】
              ・労働基準監督署などへの対応が必要な場合、企業を代行して必要な書類を作成し、説明を行います。

              まとめ

              業務転換命令は、企業の運営において重要な施策の一つですが、従業員の権利や感情に十分配慮しながら進める必要があります。特に、従業員が拒否した場合、法的リスクを慎重に検討し、誠実な対応を行うことが求められます。


              社会保険労務士は、法的な視点からの助言だけでなく、従業員との対話や教育の支援、問題解決に向けた実務的なサポートを提供することで、企業が円滑に業務転換を進められるよう貢献します。トラブルを未然に防ぐためにも、専門家の支援を積極的に活用していきましょう。

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