【最低賃金違反のリスクを回避する】最低賃金の基礎知識について社労士が解説
2025.01.16
※この記事は、5分程度で読むことができます。
はじめに
最低賃金は、労働者が生活するために必要な最低限の賃金を確保するために設けられた法律で、中小企業においても必ず守らなければならない重要な基準です。
しかし、毎年改定される最低賃金に対応しきれなかったり、計算方法の理解が不十分であったりする場合、法令違反となり、企業イメージの低下や罰則のリスクがあります。
本コラムでは、最低賃金の基本ルール、違反した場合のリスク、そして中小企業が取るべき対応について詳しく解説します。また、社会保険労務士が提供できる具体的な支援内容についてもご紹介します。
1.最低賃金とは?
最低賃金は、労働基準法および最低賃金法に基づき、事業主が労働者に支払わなければならない最低限の賃金額を定めたものです。
(1) 地域別最低賃金
都道府県ごとに設定されており、地域の物価や経済状況を反映して毎年改定されます。
【最低賃金の例】
東京都:1,163円(2024年10月1日発行)
福岡県:992円(2024年10月5日発行)
佐賀県:956円(2024年10月17日発行)
(2) 特定最低賃金
特定の業種に適用される最低賃金で、地域別最低賃金よりも高い場合があります。
【特定最低賃金の例】
・自動車製造業や化学工業など特定の職種に適用。
事業所所在地に関係なく業種基準が優先される。
2.最低賃金の計算方法
最低賃金の適用は、基本給と一部の手当が対象です。ただし、全ての賃金が最低賃金の計算対象になるわけではありません。
(1) 対象となる賃金
最低賃金は、毎月支払われる基本的な賃金が対象となります。以下の賃金は計算に含まれます。
基本給: 労働契約で定められた基本的な給与。
所定内労働に対する賃金: 勤務日数や時間に基づく出勤手当など。
(2) 最低賃金の対象とならない賃金
以下の賃金は最低賃金の計算に含まれません。
・臨時に支払われる賃金(例: 結婚手当など)
・1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金(例: 賞与など)
・所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金(例: 時間外割増賃金など)
・所定労働日以外の労働に対して支払われる賃金(例: 休日割増賃金など)
・午後10時から午前5時までの間の労働に対して支払われる賃金のうち、通常の労働時間の賃金の計算額を超える部分(例: 深夜割増賃金など)
・精皆勤手当、通勤手当及び家族手当
【注意点】
最低賃金に該当する賃金は「労働の対価として支払われるもの」が対象です。対象外の賃金を含めて計算した場合、最低賃金を満たしていないと判断される可能性があります。
(3) 計算例
【条件】
・基本給:20万円
・1か月の所定労働時間:160時間
【計算】
・時間あたり賃金 = 20万円 ÷ 160時間 = 1,250円
この場合、該当する地域の最低賃金が1,000円の場合は、その金額以上であり、適法となります。
3.最低賃金違反のリスク
最低賃金を遵守しない場合、企業にはさまざまなリスクが発生します。
(1) 労働基準監督署からの是正勧告
最低賃金を下回る賃金を支払った場合、労働基準監督署が是正を求める可能性があります。
【是正内容】
不足分の賃金を遡及して支払う。
未払い賃金に対する付加金(遅延利息)の支払い。
【具体的な事例】
ある飲食業の事例では、アルバイト従業員への賃金が最低賃金を下回っていることが発覚し、労働基準監督署からの是正勧告を受けました。この企業では、不足分の賃金約100万円を支払い、さらに再発防止のために賃金体系を見直しました。
(2) 罰則
最低賃金法違反は、50万円以下の罰金が科される可能性があります。
【具体的な事例】
小売業で、最低賃金を満たしていないパート従業員に対し、数年間にわたる賃金未払いが発覚。罰金処分を受けた上に、未払い賃金約300万円と遅延利息の支払いを命じられました
(3) 企業イメージの低下
最低賃金違反が公表されると、労働者や取引先からの信頼を失い、採用活動にも悪影響を及ぼします。
【具体的な事例】
製造業の中小企業が最低賃金違反を起こし、その事実が地域新聞に掲載されました。これにより、新規採用活動で応募が激減し、取引先からの契約更新も停止されるなど、経営に深刻な影響が及びました。
4.中小企業が取るべき対応
(1) 定期的な賃金チェック
最低賃金は毎年改定されるため、年に1回は全従業員の時給換算額を確認することが重要です。
【チェックポイント】
・最新の最低賃金額を把握する。
・時間あたりの賃金が最低賃金を下回っていないか確認する。
(2) 賃金体系の見直し
基本給や手当を適切に設定し、最低賃金違反が起こらないようにします。
【具体策】
・基本給を引き上げ、最低賃金との差額を確保する。
・時間外労働や手当の内訳を明確にする。
(3) 労働時間管理の徹底
過少申告や不正確な労働時間記録が原因で最低賃金を下回ることを防ぐため、適切な勤怠管理システムを導入します。
【ポイント】
・勤怠管理ソフトやクラウドツールの活用。
・管理職や担当者への教育。
5.社会保険労務士ができる支援
(1) 賃金制度の診断
・現行の賃金制度が最低賃金に適合しているかを診断。
・賃金体系の見直しや改善案の提案。
(2) 就業規則や賃金規程の整備
・最低賃金に対応した就業規則や賃金規程の作成・改定をサポート。
・特定最低賃金が適用される業種に対応した規定を作成。
(3) 労働時間管理のアドバイス
・勤怠管理方法の見直しや改善策の提案。
・労働時間に基づく正確な賃金計算の指導。
(4) 行政対応の代行
・労働基準監督署からの是正勧告や調査対応をサポート。
・未払い賃金が発生した場合の補償計画作成。
(5) 助成金活用の提案
・賃金引き上げや労務管理改善に活用できる助成金情報を提供。
・申請書類の作成と手続き代行。
まとめ
最低賃金の遵守は、企業が法令を守りつつ労働者の生活を支える基本的な責任です。特に中小企業においては、賃金体系や労働時間管理の見直しが欠かせません。
社会保険労務士の専門的な支援を活用することで、最低賃金の遵守がスムーズに進むだけでなく、労働環境の改善や従業員満足度の向上にもつながります。ぜひ専門家と連携し、健全な職場環境を構築してください。
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