【社員の定着率をあげるために】「短時間正社員制度」を導入する際のメリットと注意点について社労士が解説
2024.11.30
はじめに
少子高齢化や働き方の多様化が進む現代、特に中小企業では人材不足や雇用の維持に課題を抱えています。その解決策の一つとして注目されるのが「短時間正社員制度」です。厚生労働省が推進する「働き方改革」では、多様な働き方の実現が掲げられ、この制度が積極的に提案されています。
本コラムでは、短時間正社員制度の概要、導入のメリット、注意点、さらに厚生労働省の動きについて解説します。
短時間正社員制度とは
短時間正社員とは、フルタイム正社員より短い労働時間で働く正社員のことを指します。以下が主な特徴です。
➢労働時間が短縮される代わりに給与もそれに応じて減少
➢社会保険や福利厚生の適用範囲は、正社員と同等
➢労働時間以外の待遇(昇給、賞与、休暇など)は就業規則で規定される
2010年代後半以降、働き方改革関連法の施行に伴い、厚生労働省は「柔軟な働き方」の一環として、この制度の普及に取り組んできました。
厚生労働省による推進内容
1.「多様な正社員」の推奨
厚生労働省は「多様な正社員」の概念を示し、次の3つを例に挙げています。短時間正社員は、これら多様な正社員としての働き方の一種となります。
➢職務限定型正社員:特定の職務に限定された業務を担う正社員
➢勤務地限定型正社員:勤務地を限定した正社員
➢短時間正社員:労働時間を短縮した正社員
これらの形態により、従来のフルタイム正社員と非正規雇用の中間に位置する雇用形態を整備し、企業と労働者双方のニーズに応える仕組みを構築しています。
2.助成金制度
短時間正社員制度の導入には、企業の初期投資や就業規則の改訂が必要です。これを支援するため、厚生労働省では助成金を設けています。
➢「働き方改革推進支援助成金」:短時間正社員制度の導入に向けた規則整備や労働時間管理システムの導入費用を一部補助。
➢「キャリアアップ助成金」:非正規雇用から短時間正社員への転換に対する助成。
これらの助成金は、中小企業の負担軽減に寄与します。
3.周知活動
厚生労働省の公式ウェブサイトや地方労働局では、短時間正社員制度の活用方法を解説するガイドラインや導入事例を公開しています。また、セミナーや説明会を通じて制度普及を図っています。
短時間正社員制度を導入するメリット
短時間正社員制度を導入する事で、次の様なメリットが期待されます。
1.人材確保の強化
厚生労働省の調査では、育児や介護などでフルタイム勤務が難しい労働者の多くが、「柔軟な労働時間制度があれば働きたい」と回答しています。短時間正社員制度を導入することで、これらの人材を雇用でき、労働力の確保に役立ちます。
2.離職率の低下
短時間正社員は、自身のライフスタイルに合わせた働き方が可能です。これにより、従業員の仕事満足度が向上し、結果的に離職率が低下する効果が期待されます。
3.同一労働同一賃金の達成に向けた制度見直しの機会創出
働き方改革関連法に基づく「同一労働同一賃金」の原則に対応するための制度整備をする機会を設けることが出来ます。また、非正規社員から短時間正社員への転換は、待遇格差を是正する具体的な手段となります。
4.企業のイメージアップ
短時間正社員制度を取り入れることで、「柔軟な働き方を提供する企業」としてのブランド価値が向上します。採用活動においても有利に働きます。
導入する際の注意点
短時間正社員制度を導入する際の注意点は下記の通りです。
1.労働条件の明確化
短時間正社員の労働条件をあらかじめ明確にし、労働契約書に記載する必要があります。特に以下の項目が重要です。
➢労働時間
➢賃金(基本給、賞与、昇給の算定基準)
➢福利厚生の適用範囲
2.フルタイム正社員との公平性
短時間正社員とフルタイム正社員の待遇差が適正でなければ、従業員間の不満を招く恐れがあります。同一労働同一賃金の観点で、公平性を担保することが重要です。
3.管理コストの増加
短時間勤務者が増えることで、シフト調整や業務進捗管理の手間が増加する可能性があります。これに対応するため、管理体制やツールの整備が必要です。
導入事例
導入事例1:地域密着型の小売業
ある地方の小売業では、従業員の高齢化と人材不足が課題でした。この企業は短時間正社員制度を導入し、60代以上のシニア層や育児中の女性を積極採用しました。同社は厚生労働省の助成金を活用し、制度導入のコストを削減。結果、従業員満足度が向上し、離職率も大幅に減少しました。
また、地元メディアで取り上げられることで「働きやすい企業」としての認知度が高まり、新たな人材獲得にも成功しました。
導入事例2:地方の中小企業での活用例
地方のある製造業の中小企業では、子育て世代の従業員の離職率が課題となっていました。同社は短時間正社員制度を導入し、育児中の社員が働きやすい環境を整備しました。その結果、離職率は大幅に減少し、逆に採用活動でも「働きやすい職場」として注目されるようになりました。
同社のポイントは、短時間正社員の業務内容を明確化し、業績評価基準を設けたことです。これにより、フルタイム社員とのバランスを取りつつ、公平な環境を提供できました。
おわりに
短時間正社員制度は、中小企業が多様な人材を活用し、組織の持続可能性を高めるための有効な手段です。一方で、導入には労働条件の整備や公平性の確保など、多くの準備が必要です。
厚生労働省や地方労働局が提供する助成金やガイドラインを活用し、専門家と連携しながら進めることで、スムーズな導入が可能となります。
制度を通じて、働きやすい職場づくりと企業成長の両立を目指しましょう。
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