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【カスハラから社員を守るために】空港グランドハンドリング業界の事例から学ぶカスハラ対策を社労士が解説

2024.12.20

※この記事は、10分程度で読むことができます。
※この記事は、2024.12.17 【労働新聞 ニュース】「勘違い」でのカスハラ最多 空ハン協調べ を参照し、作成しています。

はじめに

近年、接客業におけるカスタマーハラスメント(以下、カスハラ)は深刻な問題として注目されています。特に、空港におけるグランドハンドリング業務を担当する従業員の間で被害が広がっていることが、空港グランドハンドリング協会の調査によって明らかになりました。

この調査によると、カスハラの主な原因として、苦情者の“勘違いや思い込み”が最多となっており、従業員の心身に多大な負担をかけています。

本コラムでは、この実態を踏まえ、企業がとるべき具体的な対策について提言します。

1.カスハラの現状と課題

1.調査結果から見える問題点
調査によれば、旅客対応業務に従事する従業員の多くが、カスハラの被害を経験しています。その原因として「勘違いや思い込み」が最多となり、次いで「手荷物の汚損や紛失」が挙げられました。

このデータは、顧客が事実関係を正確に把握しないまま従業員に不満をぶつけるケースが多いことを示しています。従業員は本来の業務に加え、このような理不尽な対応に追われ、業務効率の低下や精神的なストレスを抱える結果となっています。

2.カスハラ被害が企業にもたらす影響
カスハラは、従業員個人の問題にとどまらず、企業全体の課題でもあります。従業員のメンタルヘルス不調や離職率の上昇、サービス品質の低下、さらには企業ブランドの毀損といった問題を引き起こします。

このような状況に対処しない場合、企業の持続可能性に重大な影響を及ぼしかねません。

2.企業がとるべき具体的な対策

1.カスハラ対策ガイドラインの策定
空港グランドハンドリング協会が今年度中に策定を予定している「カスハラ対策ガイドライン」は、全ての企業が参考にすべき基準となるでしょう。

このような業界標準を活用し、自社に適したガイドラインを作成することが重要です。具体的には、以下の内容を含めるべきです。

カスハラの定義と具体例の明示

従業員が被害に遭った際の対応手順

・エスカレーションフロー(管理職や専門部署への報告)


・顧客との対応ルール(毅然とした態度で対応するための指針)


2.従業員教育とトレーニング

従業員がカスハラに適切に対処するためには、日常的なトレーニングが必要です。具体的には、以下の施策が考えられます。

・ロールプレイングを活用したシミュレーション訓練
実際のカスハラ場面を想定し、冷静かつ適切に対応するスキルを磨きます。

・コミュニケーションスキルの向上
誤解を招かない説明力や、感情的な顧客を落ち着かせる技術を身につけます。

・メンタルヘルス研修
カスハラによる心理的負担を軽減するため、ストレス管理やセルフケアの方法を学びます。


3.従業員支援体制の強化
従業員が安心して働ける環境を整備することは、企業の責任です。以下の支援体制を整えることが求められます。

・相談窓口の設置
専門の相談員が従業員の悩みを聞き、必要に応じてカウンセリングを提供します。

・心理的安全性の確保
管理職が積極的に従業員の声を拾い上げ、問題解決に取り組むことで、従業員が安心して問題を報告できる環境を作ります。

・休息やリフレッシュの促進
定期的な有給取得の推奨や、職場内にリフレッシュスペースを設けるといった取り組みも有効です。


4.テクノロジーの活用

顧客対応においては、テクノロジーの導入もカスハラ対策に寄与します。

・AIを活用したチャットボット
よくある問い合わせやクレームはチャットボットで対応し、従業員の負担を軽減します。

・カスハラ発生時の記録システム
カスハラ事例をデジタルで記録・分析し、予防策の立案に役立てます。

・監視カメラの設置
客観的な証拠を収集し、従業員を守る手段として活用します。

3.企業文化の見直し

カスハラ対策を効果的に進めるためには、企業文化そのものを見直す必要があります。従業員の権利を尊重し、心理的安全性を高める風土を醸成することで、従業員が安心して働ける環境を作ることができます。

また、カスハラを許容しない姿勢を明確に打ち出すことで、顧客に対しても適切な行動を求めるメッセージを発信することが重要です。


具体的な見直し方法と注意点

1.トップダウンによる姿勢の明確化
経営陣が率先して「カスハラを許容しない」というメッセージを発信することが重要です。これにより、従業員は企業の方針を理解し、安心して業務に取り組めるようになります。

2.行動指針やポリシーの見直し
企業の行動指針や接客ポリシーに、従業員の保護に関する条項を追加することを検討します。例えば、「顧客対応において従業員の尊厳が損なわれる行為は許容しない」といった内容を明文化します。

3.定期的なフィードバック機会の創出
従業員から現場の意見を定期的に収集する機会を設けます。このプロセスを通じて、企業文化が現場の実情に合致しているかを確認し、必要な改善を行います。

4.エンゲージメント向上の取り組み
従業員満足度を向上させるために、キャリア支援やスキルアップの機会を提供します。従業員が企業に対して信頼感を持つことで、心理的安全性がさらに高まります。

5.顧客教育の推進
顧客に対しても、適切な行動を促す教育活動を展開します。例えば、店舗やサービス現場に「従業員を尊重してください」といった啓発ポスターを掲示することが有効です。


企業文化の変革には時間がかかるため、短期的な成果を過度に期待しないことが重要です。従業員に対する一方的な押し付けにならないよう、現場の声を尊重しながら進めることが必要です。

取り組みを進める過程で、顧客離れのリスクが伴う場合もあるため、慎重にバランスを取る必要があります。

4.社会保険労務士が出来る支援

社会保険労務士(以下、社労士)は、カスハラ対策において企業を包括的に支援する役割を果たします。具体的には以下のような支援が可能です。

1.就業規則や社内規程の整備
カスハラを防止するためのルールを明文化した就業規則や、従業員を保護するための相談体制を盛り込んだ社内規程の策定を支援します。

2.相談窓口の設置と運営支援
従業員が安心して相談できる環境を整備するために、窓口の設置や運営方法について助言します。外部委託を活用する場合の手配も支援します。

3.研修プログラムの提供
カスハラ対応やメンタルヘルスケアに関する従業員向け研修を企画・実施します。また、管理職向けに問題発生時の適切な対応方法について教育を行います。

4.メンタルヘルス支援
ストレスチェック制度の導入や、カウンセリングサービスの提供など、従業員のメンタルヘルスをサポートする体制構築を支援します。

5.法的アドバイスの提供
労働基準法や労働契約法に基づき、企業が法的リスクを回避するための適切な対応策を助言します。また、カスハラに関する法的問題が発生した場合には専門的な解決策を提案します。

6.外部機関との連携
弁護士やカウンセラーなどの専門家と連携し、企業の状況に応じた最適な支援を提供します。これにより、包括的な問題解決を図ります。


社労士の支援は、企業がカスハラ問題を根本的に解決し、従業員が働きやすい職場環境を構築するための強力な助けとなります。

まとめ

カスタマーハラスメントは、空港業界に限らず、幅広い業種で深刻な問題となっています。本コラムで提案したカスハラ対策ガイドラインの策定、従業員教育、支援体制の強化、テクノロジーの活用は、どの業界にも応用可能です。さらに、社会保険労務士の専門的な支援を活用することで、より効果的に対策を進めることが可能です。


企業がこれらの取り組みを実施することで、従業員の働きやすさを向上させるだけでなく、顧客満足度の向上や企業価値の向上にもつながるでしょう。


企業は、カスハラ対策を単なるコストと捉えるのではなく、従業員と顧客双方の満足度を高める投資として位置づけることが求められます。

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