【労務トラブルを未然に防ぐ】労災保険にまつわるトラブル事例について社労士が解説
2025.01.22

※このコラムは5分程度で読むことができます
はじめに
労災保険は、労働者が仕事中や通勤中に負ったケガや病気、または死亡に対する保障を提供する重要な制度です。しかし、この制度を巡るトラブルが企業と労働者の間で頻発しています。多くのケースでは、事業主が制度の詳細を正確に把握しておらず、結果として不適切な対応が問題を招いています。
本コラムでは、労災保険に関連する代表的なトラブル事例を紹介し、その原因と対策について解説します。また、社会保険労務士が提供できる具体的な支援についてもご紹介します。
1.労災保険をめぐるトラブル事例
(1) 労災の適用範囲に関するトラブル
【事例】
建設業の現場作業員が作業中に転落事故でケガを負いましたが、事業主が「業務外の事故」と主張して労災申請を拒否しました。労働者が労働基準監督署に相談した結果、労災が認定され、事業主は指導を受けました。
【原因】
・事業主が労災保険の適用範囲を正確に理解していない。
・業務と事故の因果関係について認識が甘い。
【解決策】
・業務と労働者の活動がどのように関連しているかを明確にするための記録を残す。
・事前に労災保険の適用範囲を理解し、適切な対応を準備する。
(2) 労災の未加入によるトラブル
【事例】
小規模な飲食店で働く従業員が厨房で熱湯をかぶって火傷を負いました。しかし、事業主が労災保険に加入しておらず、全額自己負担で治療を受けざるを得ない状況に。労働基準監督署からの是正指導を受け、後日保険加入が義務付けられました。
【原因】
・労災保険の加入義務を認識していない。
・従業員数が少ないため、適用対象外と誤解している。
【解決策】
・全ての事業主が、事業の規模や業種に関わらず、労災保険への加入義務を理解する。
・未加入の場合は、速やかに保険加入手続きを行う。
(3) 通勤災害の認定に関するトラブル
【事例】
通勤中に交通事故に遭った従業員が労災申請を行ったが、事業主が「遠回りしていたため通勤経路ではない」として拒否しました。労働基準監督署が調査を行い、遠回りが合理的な経路であると認められたため、労災が適用されました。
【原因】
通勤災害の範囲や認定基準に関する理解不足。
労働者と事業主間で認識のズレがある。
【解決策】
通勤経路や手段について事前に確認し、可能であれば書面で共有する。
通勤災害の認定基準を把握し、迅速に対応する。
(4) 労災手続きの遅延によるトラブル
【事例】
従業員が作業中に指を切断する重大な労災事故が発生。しかし、事業主が労災申請書の提出を怠り、従業員が補償を受けるまでに数か月を要しました。この事例では、労働者から事業主への不信感が生じ、退職に至りました。
【原因】
労災申請手続きに関する知識不足。
忙しさや優先順位の低さによる手続きの遅れ。
【解決策】
労災発生時の手続きフローを事前に整備。
労災が発生した場合は速やかに対応し、必要書類を迅速に提出する。
2.業務災害と通勤災害の定義
(1) 業務災害
業務災害とは、業務上の事由または業務に起因して発生したケガ、病気、死亡を指します。具体的には、以下のようなケースが該当します。
・作業中の事故(例: 現場での転倒、機械操作中のケガ)
・業務による健康障害(例: 職業病、過労による疾患)
業務災害が認定されるためには、労働者が事業主の指揮命令下にあり、業務遂行性があることが求められます。
(2) 通勤災害
通勤災害とは、労働者が通勤中に発生したケガや事故、死亡を指します。ただし、通勤災害として認められるためには、以下の条件を満たす必要があります。
・通勤経路が合理的であること(例: 自宅から職場への最短経路)
・私的な行為や目的外の行動を含まないこと(例: 道中の買い物や遠回りが合理的でない場合は対象外)
通勤災害の認定は、労働基準監督署が詳細に調査した上で判断されます。
3.労災保険に関連するトラブルを防ぐためのポイント
(1) 労災保険の適用範囲を明確にする
業務災害と通勤災害の違いを正確に理解する。
事業主と従業員の間で適用条件について共有する。
(2) 労災発生時の手続きフローを整備
労災事故が発生した場合の対応マニュアルを作成。
労災申請書や必要書類のフォーマットを事前に用意する。
(3) 労災保険の加入状況を定期的に確認
保険料の支払い状況や労働者の適用範囲を年に一度確認する。
新規採用者や雇用形態の変更時に適用漏れがないか確認する。
(4) 通勤経路の確認と記録
通勤経路や交通手段を従業員から申告させ、記録を保管。
必要に応じて通勤経路を見直し、合理性を確認する。
4.社会保険労務士ができる支援
労災保険を巡るトラブルを防ぐためには、専門家のサポートを受けることが有効です。社会保険労務士は以下のような支援を提供します。
(1) 労災保険の加入手続きサポート
労災保険未加入事業所の適用手続き。
適切な保険料の計算や支払いサポート。
(2) 労災発生時の手続き代行
労災申請書や必要書類の作成・提出を代行。
労働基準監督署とのやり取りをサポート。
(3) 労災保険制度の教育・研修
事業主や管理職向けに、労災保険制度の説明会を実施。
トラブル事例を踏まえた具体的な対応策の共有。
(4) 予防策の提案
労災リスクの診断と改善提案。
労働者の安全衛生教育や職場環境の整備をサポート。
まとめ
労災保険は、労働者の安全と企業のリスク管理を支える重要な制度です。しかし、その適用範囲や手続きに関する理解が不足していると、企業にとって大きなトラブルとなる可能性があります。
社会保険労務士の専門的な支援を受けることで、労災保険に関するリスクを軽減し、適切な労働環境を整備することができます。トラブルを未然に防ぎ、安心して働ける職場づくりを進めるために、ぜひプロの力を活用してください。

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